日本で就職を希望する留学生にとって、この技人国ビザへの変更許可は就労への第一歩です。文系・理系を問わず専門的知識を活かせる職種であることが条件となり、入管は申請者の学歴や職務内容の専門性、待遇(給与)、そして在留中の素行などを総合的に審査します。本記事では、入管が公開している資料に基づき、実際にあった許可事例と不許可事例を2回に分け網羅的に整理しました。
【「技術・人文知識・国際業務」への変更許可/不許可事例】 入国管理局 (令和6年12月25日改訂)
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今回は、学歴が大学卒のうち「本国の大学卒業者」「日本の大学卒業者」のカテゴリーに分け、許可が下りたケースと残念ながら不許可となったケースを具体的に紹介します。ビザ申請成功のポイントも解説しますので、ぜひ参考にしてください。

本国の大学卒業者の事例(海外の大学を卒業後に日本で就職を目指す留学生)

◯許可事例(本国大学卒業者)

海外の大学で学士・修士を取得した留学生が、日本で専門知識を要する職種に就いたケースです。学歴分野と職務内容の関連性や、母国での実務経験が評価され、許可となった事例が多数報告されています。

  1. 工学専攻(学士) – 母国でオンラインゲーム開発会社に勤務後、日本のグループ企業(ゲーム事業部門)でオンラインゲームの設計・テスト等の開発業務に従事。月給約25万円。専門知識を活かした開発プロジェクトの担い手として高度専門職と認められ許可。
  2. 工学専攻(学士) – 母国でソフトウェア会社に勤務後、日本のソフトウェア企業に契約入社し、ソフトウェアエンジニアとしてコンピュータ関連サービス業務に従事。月給約35万円。専門スキルを持つエンジニア職として採用され職務内容が適切なため許可。
  3. 電気通信工学専攻(学士) – 母国の日本企業子会社に勤務後、日本にある親会社に契約入社し、コンピュータ・プログラマとしてソフト開発における顧客との仕様調整や仕様書作成業務に従事。月給約24万円。前職での経験と専門知識を活かし通信分野の専門業務であると認められ許可。
  4. 機械工学専攻(学士) – 母国の自動車メーカーで製品開発・テスト・社員指導等を経験後、日本のコンサル・人材派遣会社と契約し、月給約170万円で外資系自動車メーカーの技術開発プロジェクトマネージャーとして派遣勤務。高い専門性と管理職レベルの待遇が評価され問題なく許可。
  5. 工学・情報処理専攻(学士) – 母国で証券会社のリスク管理部門等に所属しシステム開発に携わった経験を持ち、日本の証券関連企業にてリスク管理システムの開発業務に従事。専門知識と実務経験を評価され許可。
  6. 電気力学・工学専攻(学士) – 母国の輸送機器メーカーで勤務後、日本の航空機整備会社と契約し、月給約30万円で航空機の整備計画・エンジニア業務に従事。航空・機械分野の専門技能を活かせる職務内容のため許可。
  7. 日本語教育専攻(学士) – 母国の大学卒業後、日本の語学学校から契約月給約25万円で日本語教師に採用。語学指導は「国際業務」に該当し、大学卒業者であれば原則実務経験不要(母語話者として十分)と扱われ許可。
  8. 経営学専攻(修士) – 母国で大学院修了後、海運会社に約4年間勤務。日本の海運企業に契約入社し、外航船の用船・運航業務に従事。学んだ経営知識と海運実務の経験を活かした国際業務であり許可。
  9. 会計学専攻(学士) – 母国大学卒業後、日本の情報処理サービス会社との契約で月給約25万円を受け取り、同社の海外事業部門(国際取引業務)に従事。専攻分野(会計・ビジネス)を活かしつつ国際業務に携わる点が評価され許可。
  10. 経営学専攻(学士) – 母国で経営コンサルタント職等に従事後、日本のIT関連企業から月給約45万円で契約採用され、海外向け新規事業の企画・推進業務に従事。高収入かつ専門的な企画職として許可。
  11. 経営学専攻(学士) – 母国大学卒業後、日本の食品・雑貨輸入販売企業に月給約30万円で契約入社し、本国との貿易取引業務を担当。専攻知識(経営)と語学力を活かし本国との橋渡し業務を行うため許可。
  12. 経済学・国際関係学専攻(学士) – 母国大学卒業後、日本の自動車メーカーに契約入社し、月給約20万円で本国と日本間の国際調整業務(渉外)に従事。国際関係の知識と言語スキルを活かした業務内容で許可。
  13. 自動車工学専攻(学士) – 母国大学卒業後、日本の自動車メーカーとの契約で月給約20万円を受け取りサービスエンジニアとして採用。自動車の点検・診断など専門知識を要する業務に従事しつつ、入社後3年以内に自動車整備士資格を取得し整備主任者として活躍する明確なキャリアプランが提示されたため許可。専門職への計画的研修と位置づけられています。

☓不許可事例(本国大学卒業者)

本国の大学卒業者に関する不許可事例は、当該PDFには具体的に示されていません。ただし、専門性に欠ける職種や日本人と同等以上の待遇が確保されていない場合、在留中の規則違反などがあれば不許可となる可能性があります(不許可事例の詳細は以下「日本の大学卒業者」「専門学校卒業者」の項目も参照)。

日本の大学卒業者の事例(日本の大学を卒業した留学生)

◯許可事例(日本の大学卒業者)

日本の大学(学部)を卒業後、その専攻分野を活かして企業に採用されたケースです。大学での専攻と職務内容の関連性については比較的柔軟に判断されます。翻訳・通訳・語学教師についても、母語を活かす場合は実務経験不要で許可される傾向があります。

  1. 工学部卒 – 電機製品の製造会社において技術開発業務に従事。【許可理由】専攻の工学知識を活かした製品開発職であり、専門性が明確。
  2. 経営学部卒 – コンピュータ関連サービス企業で翻訳・通訳業務に従事。【許可理由】語学力を活かした国際業務ポジション。外国人の母国語を活用する語学業務は実務経験不要で例外的に許可。
  3. 法学部卒 – 法律事務所にて弁護士の補助業務に従事。【許可理由】法学の学位を背景に法律実務に携わる専門職であり許可。
  4. 教育学部卒 – 語学教育事業の会社にて英会話講師として勤務。【許可理由】教育学の知識と母語(英語等)能力を活かした語学指導業務であり許可。
  5. 工学部卒 – 食品メーカーにて経営コンサルティング業務に従事。【許可理由】製造業の知見と工学的思考を活かし、専門性が認められる業務のため許可。
  6. 経済学部卒 – ソフトウェア開発会社にてシステムエンジニアとして勤務。【許可理由】経済・IT知識を組み合わせた専門的業務(システム開発分野)であると判断され許可。
  7. 文学部卒 – 食料品小売チェーン本社の総合職に正社員採用。当初2年間は研修としてスーパーマーケット店舗で商品陳列・レジ対応・接客等を経験し、その後本社業務に携わる計画。【許可理由】一定期間の現場研修を含むものの、期間や内容が明確に定められた研修であり、その後は専門知識を要する本社業務に就くことが約束された採用形態のため許可。
  8. 工学部卒 – 建設会社にて建設技術の基礎及び応用研究、国内外の建設事情調査等の業務に従事。【許可理由】建築工学の知識を活かした設計および開発業務が評価され、専門性が認められるため許可。
  9. 工学部卒 – 土木・建設コンサルタント会社にて土木及び建築における研究開発・解析・構造設計業務に従事。【許可理由】社会基盤構築の知識を活かし、実務に関連する高度な業務として許可。
  10. 工学部卒 – 電気通信事業会社の研究所にて情報セキュリティプロジェクトに従事。【許可理由】電子情報学の専門知識を活かしたセキュリティ技術の設計に関わる業務が評価され許可。
  11. 国際関係学部卒 – 航空会社にて空港旅客業務及び外国航空会社との交渉・提携業務に従事。【許可理由】国際的な調整業務や連携業務が評価され、専門職として許可。
  12. 経営学部卒 – 航空会社にて国際線の客室乗務員として、緊急事態対応・保安業務、通訳・案内、語学指導業務に従事。【許可理由】航空業務に関する専門知識と語学力が評価され許可。

☓不許可事例(日本の大学卒業者)

日本の大学を卒業した留学生でも、職務内容や在留状況によっては不許可となる場合があります。以下の事例では、勤務先や業務内容の適格性、報酬水準、在留中の遵法状況などで問題が指摘され、不許可判断となりました。

  1. 経済学部卒 – 会計事務所で会計業務に従事すると申請。しかし、届け出の所在地には実際には料理店が存在し事務所実態が不明。【不許可理由】勤務先が実在しない疑いがあり、専門業務に従事する活動実態が認められないため不許可。
  2. 教育学部卒 – 弁当製造・販売会社の現場作業員として採用され、工場で弁当の箱詰め作業に従事すると申請。【不許可理由】弁当の箱詰めは単純作業であり、人文科学の知識を要する業務とは認められないため不許可。
  3. 工学部卒 – ITサービス企業でエンジニア業務に月額13万5千円で従事すると申請。【不許可理由】同時期に採用された新卒日本人エンジニアの給与(月18万円)より低額であることが判明し、報酬が日本人と同等以上とは認められず不許可。
  4. 商学部卒 – 貿易・海外業務会社で海外取引業務に従事すると申請。【不許可理由】留学中に1年以上にわたり月200時間超のアルバイト勤務を継続していたことが発覚。資格外活動(週28時間以内)の範囲を大幅に超過しており、在留状況不良と判断され不許可。
  5. 経営学部卒 – 飲食チェーン本社に管理者候補として採用との申請。【不許可理由】当初より専門業務に就く確約がなく、数年間にわたり飲食店で接客・調理などの実務経験を積んだ後に選抜された一部のみが管理業務に就く不確定なキャリアプランだったため。全員に課される短期研修の範囲を超え、長期に渡り非専門的業務に従事する計画と判断され不許可。

次は日本の専門学校編

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この記事を書いた人

SHINGO ITO
SHINGO ITO行政書士Office ITO 代表
IT業界で10年目リストラに遭遇し、行政書士資格を取得。
2016年,行政書士Office ITOを開設し、外国人ビザ申請に特化。
銀座を拠点に就労ビザ・配偶者ビザ・永住ビザなど実績10年。
趣味はおいしいパスタ料理(自称)と断捨離。家は小遣い制。
[ 所属団体 ]
東京行政書士会(会員番号 第11086号)
日本行政書士会連合会(登録番号 第16081519号)
[ 資格 ]
・Certified Administrative Procedures Specialist(行政書士)
・Certified Immigration Procedures Agent(入管申請取次)他

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